2013/07/17

Nepal-117: 学年末

3月下旬。
学生にとっては、一年で最も大切なシーズンだ。
特にSLC(学校教育修了検定)を受ける10年生にとっては、文字通り、自分の将来を左右する数週間となる。
ホステルの生徒たちも、学年末テストに向けて最後の追い込みをかけている。
私は朝から夕方までSG小学校へ行き、学校が終わったらホステルへ直行して、彼らのテスト勉強を見るのが日課となった。
特にホステル一年目のスリジャナは、一年上のビルやシュレンドラに比べると今ひとつ成績が振るわない。
学年全体で言えば彼女の位置は中の上と決して悪くはないが、最初の一年で上位に食い込ませておかないと『並』でいることに慣れてしまう。
しかし、奨学生として援助をする以上、人並みで満足してもらっては困るのだ。


時を同じくして、SG小学校でも学年末テストが始まった。
ただ、こちらには私は一切タッチしていない。
以前は私もテスト問題を作ったり、カンニングや成績改竄といった不正を監視したりしていたが、残念なことにその重要性を理解してくれる人間が教師や親たちの中にほとんど存在しなかったからだ。
元々、公立校の教師たちは能力も意欲も責任感も最低の水準にある。
一方、公立校の生徒の家庭は貧困層に属しており、親たちも往々にして教育に対する理解が低い。
だから、とにかく早く卒業して一人前になって欲しい、と大抵の親たちは考えている。
しかし、カンニングやお情けで何とか卒業できても、その先に待っているのは親と同程度の人生でしかない。
カーストや男女差別のせいにする声も多いが、結局のところ、これが貧困層が貧困層から抜け出せない最大の理由だと私は考えている。

だが、たとえ大人たちがそんなでもおかまい無しに、一生懸命勉強している子供たちはいる。
勉強嫌いだった私にはサッパリ理解できないが、勉強が好きなら思う存分学ばせてやりたい。
そんなわけで毎日テストが終わった後、私は残りたい生徒だけ集めて問題集などをやらせているのである。
ホステルのビル、シュレンドラ、スリジャナも、かつてはこの中にいた。
今年もここにいる生徒たちの中から、ポカラに連れて行く生徒が出るかもしれない。

ネパールでは、テストは一日一教科ずつ行われる。
一応、私立校では制限時間が決められているようだが、大体一時間半から二時間と日本に比べて長めだ。
ちなみに公立校の場合は特に決められていないので、終わった生徒は答案を提出してそのまま帰宅する。
ホステルの生徒たちには、帰ったらすぐにその日のテスト問題を見なおして、分からなかった問題をそのままにしないようにさせる。
テストは自分の弱点を発見するチャンスと考えなければならない。
それが終わってから翌日のテスト勉強をする。

辺りが暗くなる頃になると、私がSG小学校から帰ってくる。
普段は食事も自分たちで用意しなければならないが、テスト期間中は勉強を優先させるため、私が夕食を作ることにしている。
普段作る料理はとてもシンプルだ。
肉や野菜を切ってマサラ(スパイスミックス)やターメリックで炒めた後、水を入れてスープカレーのような感じにするだけだ。
肉は鶏肉が多いが、豚を使うこともある。
ただ、肉は基本的に「贅沢なもの」なので、毎日ではなく週に一、二回、私が食べたいだけ買ってくる。
主食の米は圧力鍋で炊く。
炊飯器もあるにはあるが、この時期は停電で使えない事が多い。
用意ができたら子供たちを呼び、みんなで一緒に食べる。
食べ終わったら後片付けと掃除をさせた後、またテスト勉強を続けさせる。
ただ、食後は大体みんな眠くなっているので、あまり夜更かしさせずに10時くらいでとっとと寝かせることにしている。

そんなテスト期間が終わると、もう春休みまで秒読みだ。
学校でももう授業は無く、出席をとることも無いので、生徒は学校に来なくてもいい。ヒマな生徒は学校に来て、スポーツなどで適当に時間を潰す。
SG
小学校などの公立校は教師だけが来て、テストの採点や通知表を書いたりしている。
そうして一週間が過ぎると、いよいよ通知表が配られる日になる。
成績表は基本的に保護者が学校に行って受け取る。
ホステルの生徒たちの場合は、私が行って受け取ってくる。
その際、生徒の成績や普段の学習態度などについて、教師がちょっとしたコメントやアドバイスをくれる。
ビル、シュレンドラ、スリジャナの今年の成績は、「中の上」から「上の中」といったところだった。
教師のコメントも、「悪くはないが、努力すればもっと良くなる」といった程度の月並みなものだった。
ただ、やはり欠席日数の多さは指摘された。


三人分の成績表を受け取った私はホステルに帰ると、それを生徒に渡した。
ビルとシュレンドラは去年とほぼ変わらず、スリジャナは最初の頃よりかは幾分良くなっている。
その成績表を参考にして、春休み中に何を重点的に勉強するのか考えさせる。
その後、ホステルをすみずみまできれいに掃除したら、いよいよ村に帰る時間である。
3
人はそれぞれ重そうな荷物を抱えて、それでも嬉しそうにバス停へ歩いていく。
さぁ、春休みだ。

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